<ざっくり言うと>
- サンフランシスコ講和会議でのセイロン代表のジャヤワルダナ氏の演説が、日本を分割統治の危機から救ったというのは嘘である。
- そもそも講和条約の最終案は会議の約1か月前に完成しており、会議での演説1つごときでいきなり内容が変わったりはしない。
- 歴史に感動を求めるのがそもそも間違ってる。
↓サンフランシスコ講和会議で日本分割案なんて出るわけないだろうが! 中学校の歴史の勉強をやり直せ!
昨日(2018/12/08)、テレビ朝日の『地球征服するなんて』という番組を見ていて驚きました。「サンフランシスコ講和会議でのスリランカ代表のジャヤワルダナ氏の演説が、日本を分割の危機から救った」という情報が「感動エピソード」として紹介されていたからです。



(2018年12月8日放送、テレビ朝日『地球征服するなんて』)
テレビでこの話が取り上げられるのは初めてではなく、テレビ東京系の『未来世紀ジパング』の2014年1月13日放送回でも、ジャヤワルダナ氏の演説のおかげで、日本が分割統治を免れた、と紹介されていました。

(2014年1月13日放送、テレビ東京『未来世紀ジパング』)
「スリランカ サンフランシスコ講和会議」などで検索すると、同じ情報が山ほど出てきます。「感動秘話!」だの「大東亜共栄圏は間違いではなかった」だの。
例えば『MAG2NEWS』というサイトでは、伊勢雅臣という人が、「日本を分割占領から救ったスリランカ代表の『愛』の演説」なんて記事を書いてますね。この伊勢雅臣という人は、『世界が称賛する日本』シリーズのような愛国ポルノ本を何冊も出している人のようですね。
しかし、以前も記事にしたことがありますが、これはデマです。というか、時系列的にあり得るわけがない。
以前の記事で詳しく書いたので細かいことは繰り返しませんが、サンフランシスコ講和会議は1951年に、連合国と日本が平和条約を結ぶための会議です。日本の分割統治なんて案が出ていたのは1945年のGHQによる統治開始前の話です。
1951年の会議での演説が、1945年の分割統治案を食い止められるわけがないだろうが!!
分割されなかったからアメリカの単独統治になったわけで、なんで単独統治が6年も続いた後の1951年に、それも講和会議の後に分割されないといかんのだ。
ジャヤワルダナ氏の演説の全文はこちらで読めます。当然、ここには分割占領に反対、なんてことは一言も登場しません(当たり前だ)。多分、ジャヤワルダナ氏の演説に南樺太とか千島列島とか台湾とかが言及されていますので、それを何か勘違いしてるんじゃないですかね?
なお、ジャヤワルダナ氏が演説の中で言及している、ソ連の修正案というのはこれのことです。ジャヤワルダナ氏は、ソ連が日本の軍事力に制限をつけるべきだと主張したのに対し、独立国にそのような制限をつけることには賛同できない、と言っているのであって、別に当時ソ連は日本の分割を求めてもいないし、当然ジャヤワルダナ氏の演説が日本を分割統治から救ったなどと言う事実は全くありません。
そもそも、講和会議のその場で講和条約を作るわけがない。日本は米国と1年以上かけて何度も交渉を重ね、会議の1か月前の8月16日の段階で、平和条約の最終案は出来上がっているのです(外務省HP参照)。ジャヤワルダナ演説で日本が分割から救われたとか言ってる人は、会議当日になっていきなり「やっぱり平和条約やめた。分割統治しよう」なんてことがあり得るとでも思ってるんですかね? それともやっぱり1951年のジャヤワルダナ演説が時空を超えて1945年の連合国に影響を与えたと思ってるんですかね。
なんでこんな中学生でもおかしいと気づきそうな時系列を無視したデマが、いつまでも繰り返し流されるのでしょう? 結局、「感動できるなら嘘でもいい」という「感動ポルノ」「愛国ポルノ」などと揶揄されるものなんでしょうね。だから歴史を捏造してでも「日本はすごかった」という感動物語を作ろうとするやつがいて(しかもコピペを多用して)、そんなのが何十万部も売れるんでしょう。
歴史に感動なんか求めるから、感動を阻害する負の部分は否定する歴史修正主義に陥るんです。こういう感動ポルノや愛国ポルノから脱して、歴史に感動的な物語なんて求めず、歴史をただ歴史として見ることができれば、こういう時系列を無視したおかしなデマに騙されたりはしないでしょう。
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コメント
義務教育で未だに近現代史が殆ど学ばれていないことの証明にも思えます。時間がないからすっ飛ばされるんですよね。高校・大学入試でそこだけ重点的に出るわけでもないし、そもそも選択制だったりすることもあるわけで。
補足すると、1951年のサンフランシスコ講和会議は、日本の主権回復と戦争状態の終結が主な議題ですね。また、この会議の中でジャヤワルダナ氏が行った演説を要約すると、"仏陀の教えを引用し「対日賠償請求権」の放棄を表明した"ですね。
氏の評価としては日本の国際社会への復帰、つまり戦争責任を果たし、占領下の状態を終えて、再び"主権国家"として独立国際社会に戻ることを後押しし、戦後の復興に寄与した方、でしょうか。
何故この方の演説が殊更に持ち上げられるのか、を検証すると、①アジアの小国が仏教の教えを引用して赦す感動的ストーリー性がある、②アメリカなどの発言は冷戦・戦略的色彩が強く地味、③教育やメディアで繰り返し取り上げられる傾向があり、なんとなく記憶に残りやすい、④ 日本政府や保守層が"恩を忘れない国"として本件を"相互外交の演出"として象徴的に扱ってきた、と言ったところでしょうか。
本来、こういう投稿って「美談の否定」として捉えるのではなく、"史実を正しく理解した上で、実際に何が評価されるべきかを整理することが重要"なんですけど、なかなか伝わらないですね。
マスコミなんかネトウヨと全く変わらんから潰して左派の手で一新するべき